古い教会の聖堂、その広く突き抜けた天井に、透き通るような少女の声が響いていた。
その少女の容姿は抑えられた腕を振り解こうと足掻いてなお輝く、 美しい金髪と艶やかな肢体を備えている。
「なぜ、なぜこのような目に遭わなければならないのですか?
わたしはただ、お父様のために薬を……」
中でも目を引く長い耳は、彼女が人ならざるものである事をありありと示していた。
それは中つ国でもっとも美しいものたちと形容されていた森の賢者たち、エルフの特徴である。
ちゃりと、きつく握り締めた手のひらの中で硬貨がぶつかり合う。
目じりに滲んでいた美しい雫を毀れ落としそうにしながら、エルミアはすがるようにこの教会の主、神父へと瞳を向けた。
父と同じ、神の教えの元に生きる方ならば、 きっと慈悲深い判断をしてくださるはずだ──そんな淡い希望を込めて。
しかし、耳を疑うような神父の言葉に、エルミアは驚愕に目を見開いた。
「……そんなっ!」
息を詰まらせるエルミアの肩を、脇を固める二人の騎士が押さえつける。
「どんなに美しい見掛けをしていても、卑しい血が流れていることもある。 あとのことは異端審問官にお任せしましょう」
異端審問官。
父が絶対に関わってはいけないと言っていた名前に、エルミアは口を噤む。
どんな手段を用いても異端とされるものを見つけ出し。
どんな手段を用いても異端とされたものに裁きを下す。
教会の教えを守るためならばどのような行いをしても許される。
強大な騎士団さえもが敬い恐れている「異端審問官」の手に、少女の命運は委ねられようとしていた。
「……っ。……分かりました。
これも、わたしの信仰を試される為に、 神様がお与えになった試練に違いありません」
「……どのような審問も……受け入れて、みせます」